傾き (数学)

曖昧さ回避 物理的形状の水平距離当たりの傾きについては「縦断勾配」を、ベクトル解析における勾配については「勾配 (ベクトル解析)」をご覧ください。
平面上の直線の傾きは、垂直移動距離を水平移動距離で割った m = Δy/Δx で定義される

数学における平面上の直線傾き(かたむき、: slope)あるいは勾配(こうばい、: gradient)は、その傾斜の具合を表す数値である。ただし、鉛直線に対する傾きは定義されない。一般的な用語として水平は傾いているとは言われないが、数学では「傾き0」とされ水平も傾きに含まれる。

傾きは普通、直線上の2点間の変化の度合い、すなわち x変化量に対する y の変化量の比率として定義される。また、同値な定義として、傾き m は傾斜角を θ として

m = tan θ {\displaystyle m=\tan \theta }

と書くことができる。

曲線上の微分可能な1点に対しても、傾斜の具合を表す数値(微分係数)が、傾きの考え方により定義できる。

傾きの概念は、地理学および土木工学における斜度や勾配(たとえば道路など)に直接応用される。

定義

xy平面上の直線の傾きは、x座標の増加量に対する y座標の増加量の比率と定義される。式で書けば、直線の傾き m

m = Δ y Δ x {\displaystyle m={\frac {\Delta y}{\Delta x}}}

で記述される。ここで、ギリシア文字 "Δ"(デルタ)は、数学において「増加量」や「増分」を表す符牒としてよく用いられる。

増加量とは差のことなので、直線上の2点を任意に取り、それらを (x1, y1), (x2, y2) とする。このとき、m

m = y 2 y 1 x 2 x 1 {\displaystyle m={\frac {y_{2}-y_{1}}{x_{2}-x_{1}}}}

で求められる。

これらの等式から分かるように、鉛直線(y軸に平行な直線)の傾きは、ゼロ除算となり、定義されない。

(例)

直線が2点 P ( 1 , 2 ) {\displaystyle P(1,2)} , Q ( 13 , 8 ) {\displaystyle Q(13,8)} を通るとする。増加量として、P に対する Q の増加量と考えるか、Q に対する P の増加量と考えるかで符号の違いが現れるが、それらの商である傾きとしてはどちらも変わらない。ここでは P に対する Q の増加量を考える。

xの増加量 Δx = 13 − 1 = 12
yの増加量 Δy = 8 − 2 = 6

傾き m とは、y座標の増加量 Δx に対する y座標の増加量 Δy の比率のことなので、

m = Δ y Δ x = y 2 y 1 x 2 x 1 = 8 2 13 1 = 6 12 = 1 2 {\displaystyle m={\frac {\Delta y}{\Delta x}}={\frac {y_{2}-y_{1}}{x_{2}-x_{1}}}={\frac {8-2}{13-1}}={\frac {6}{12}}={\frac {1}{2}}}

である。

直線が2点 P ( 4 , 15 ) {\displaystyle P(4,15)} , Q ( 3 , 21 ) {\displaystyle Q(3,21)} を通るならば、傾きは

m = 21 15 3 4 = 6 1 = 6 {\displaystyle m={\frac {21-15}{3-4}}={\frac {6}{-1}}=-6}

である。

傾斜角による記述

傾斜の度合いを表す傾きは、傾斜角と関係が深い。たとえば、傾き 1 の直線の傾斜角は 45° である。傾き −1 ならば、傾斜角を 0°~180° の範囲で考えると 135°、−90°~90° の範囲で考えると −45° である。なお、鉛直線の傾きは定義されなかったが、傾斜角は定義され、90° である。

傾斜角とは、直線と x軸の正の部分が作る角(反時計回りが正の向き)と定義される。取り得る範囲として 0° ≤ θ < 180° または −90° < θ ≤ 90° の2つの流儀がある(状況に応じて使い分ける)。

直線の傾きを m、傾斜角を θ とすると、2つの間には、三角法における正接函数を用いて

m = tan θ   ( θ = arctan m ) {\displaystyle m=\tan \theta \ (\iff \theta =\arctan m)}

の関係がある。

性質

  • 異なる2直線が平行であるための必要十分条件は、それらの傾きが等しいこと、または、傾きがともに定義されないことである。
  • 異なる2直線が直交するための必要十分条件は、傾きのが −1、または、傾きが 0 と定義されない場合であることである。
たとえば、傾き 2 7 {\displaystyle {\tfrac {2}{7}}} の直線に垂直な直線の傾きは 7 2 {\displaystyle -{\tfrac {7}{2}}} である。
  • 傾き m の直線と傾き m' の直線が作る角 θ
tan θ = ± m m 1 + m m {\displaystyle \tan \theta =\pm {\frac {m-m'}{1+mm'}}}
で求められる(三角関数の加法定理)。

1次関数における傾き

傾き・切片

yx一次関数であるとする。このとき、xy には y = ax + b と表される関係があり、そのグラフは直線となる。この直線の傾きは a に等しい。

(証明)
y = ax + b のグラフ上の任意の2点 P, Q を取る。P, Qx座標をそれぞれ x1, x2 とすると、P, Q の座標は
P (x1, ax1 + b), Q (x2, ax2 + b)
である。
xの増加量 Δx = x2x1
yの増加量 Δy = (ax2 + b) − (ax1 + b)
= ax2ax1
= a (x2x1)
傾き m は、
m = Δ y Δ x = a ( x 2 x 1 ) x 2 x 1 = a {\displaystyle m={\frac {\Delta y}{\Delta x}}={\frac {a(x_{2}-x_{1})}{x_{2}-x_{1}}}=a} (証明終)

1次関数 y = ax + b において、a を傾きと呼ぶのに対して、b y切片と呼ぶ。1次関数の y切片は、グラフ(直線)が y 軸と交わる点の y 座標に等しい。したがって、y = ax + b の形の方程式を「傾き・切片標準形」と呼ぶこともある。

1次関数 y = ax + b のグラフは、y軸平行の直線にはなりえないことに注意が必要である。

1次関数の決定

1次関数の傾き m と直線上の1点 (x1, y1) が既知ならば、1次関数の方程式は

y y 1 = m ( x x 1 ) {\displaystyle y-y_{1}=m(x-x_{1})}

で与えられる(これを「点・傾き標準形」と呼ぶことがある)。

(例)

1次関数のグラフが2点 (2, 8), (3, 20) を通るとする。1次関数の傾き m

20 8 3 2 = 12 {\displaystyle {\frac {20-8}{3-2}}=12}

だから、直線の方程式は1点・傾き標準形で

y − 8 = 12(x − 2)

と求まる。これはつまり

y = 12x − 16

である。

直線の一般形

前述の通り、1次関数のグラフは全ての直線を表さない。2変数線型方程式の一般形

a x + b y + c = 0 {\displaystyle ax+by+c=0}

は全ての直線を表す。b ≠ 0 ならば、傾きが存在し、 a b {\displaystyle -{\tfrac {a}{b}}} である。

直線の切片形

x a + y b = 1 {\displaystyle {\frac {x}{a}}+{\frac {y}{b}}=1} の形の方程式は切片形と呼ばれる。このとき yx の1次関数で、

x切片が a
y切片が b

となる。この直線の傾きは b a {\displaystyle -{\tfrac {b}{a}}} である。

方向ベクトルとの関係

直線の傾きが m であることは、その直線の方向ベクトルが (1, m) であることと同値である。

微分係数

各点における微分係数とは、その点における曲線の接線の傾きのことである。各点に対して図の直線は常に曲線(青)の接線を表す。接線を、微分係数が正のときは緑、負のときは赤、0 のときは黒で表している。

曲線上の1点に対しても、そこで微分可能ならば、傾斜の具合を表す数値としての傾きが定義できる。

ΔxΔy を曲線上の2点間のそれぞれ x座標、y座標の増加量とすると、その2点を通る直線(弦という)の傾き m

m = Δ y Δ x {\displaystyle m={\frac {\Delta y}{\Delta x}}}

である。この2点間を狭めたときの m極限が、そこを直線として近似した傾きと考えられる。これは接線の傾きであり、微分係数と呼ばれる。場所 x を変数とした

d y d x = lim Δ x 0 Δ y Δ x {\displaystyle {\frac {dy}{dx}}=\lim _{\Delta x\to 0}{\frac {\Delta y}{\Delta x}}}

を、曲線の導関数と呼ぶ。

微分係数が定義できない例としては、次のような例がある。

  • 三角屋根型
    • y = |x| における x = 0
  • 振動型
    • y = { x sin 1 x ( x 0 ) 0 ( x = 0 ) {\displaystyle y=\left\{{\begin{array}{ll}x\sin {\frac {1}{x}}&(x\neq 0)\\0&(x=0)\end{array}}\right.} (これは x = 0 で連続である)における x = 0
    • ワイエルシュトラス関数

関連項目